稚魚育成の基本


1.日記をつけることの重要性・・・@

姿がどの様に変化したのかを書き留める。

らんちゅうの育成では、翌年の飼育をさらに良いものにする為にも日記をつけることが極めて重要です。

ここで言う日記とは、天候、水温、餌の種類・量・回数、水換え・割水の量、飼育密度などの
基礎データを単に書き留めたものではなく、
そこから魚の姿がどの様に変化したのかを書き留めるものです。

つまり、交配日、交配後の魚の全長・横幅・尾形・肉瘤の変化、選別を行った日にちや方法などを
上記の基礎データに付け加える訳です。

この作業を数年間行う事で、孵化後の魚の成長の傾向をつかみ取る事が出来る上、
飼育法によってもたらされた姿の変化などの把握も可能となるでしょう。



2.初心者の間違い・・・@

飼育技術を向上させる事が最優先。

魚を早い時期に交配させると秋の段階で魚を大きく成長させる事が出来ますが、
飼育技術に乏しい初心者は真似をしない方が良いでしょう。

早い時期に交配をさせる場合、気候の不安定や低水温の為に、
温室での飼育やヒーターの使用が必要となります。

初心者が温室やヒーター等を使用した飼育を行った場合、魚をあおる事に失敗し、
体調を損ねる結果や温室の蒸れの怖さを思い知る結果となります。

運よく交配出来たとしても、水換えでの温度調節に失敗し、
せっかくの親魚や稚魚を全て落してしまう結果となる事が稀ではありません。

魚を早い時期に交配させる場合は、少なくとも魚の体調維持が
出来る様になってからとする事が大切です。






3.初心者の間違い・・・A

選別眼を磨く事も重要となる。

選別眼が無い場合、せっかく魚を早い時期に起こして交配させたとしても、
労力の割には結果が伴わない可能性が非常に高くなります。

なぜなら、初心者は選別の技術が十分でない為に稚魚を減らす事が出来ず、
結果として高密度の為に魚の成長が抑制され、早い時期に生ませた意味合いを失う事になります。

大きくなる系統であれば、5月上旬〜中旬の交配でも11月に13cm程度に仕上げる事は可能です。
初心者は飼育技術の向上と選別眼を磨いた上で、
自らの飼育技術に見合う時期に交配させる事が大切です。

●交配時期を早めるにあたって。

@飼育技術を向上させてから行う事が大切。
A選別眼を磨いてから行う事が大切。



4.孵化と水温との関係

受精卵は20℃の水温を維持させる。

稚魚が孵化するまでの日数は水温が大きく関与し、最適とされる水温は20℃と言われています。
最も奇形の出る可能性が低い水温は20℃であるとの報告がある為です。

水温が20℃よりも低い場合、一斉に孵化しないので発育が不揃いになるだけでなく、
稚魚の体に捻れや変形などの奇形が高頻度に見られる様になります。

逆に、水温が20℃よりも高い場合、短時間に発生が進むので、
尾の形成が十分に出来ず、フナ尾・スボ尾等の奇形が高頻度に見られる様になります。
したがって、受精卵の段階ではヒーターと日除けを用いて、厳重に水温の維持を行う事が大切となります。

また、1日の最高水温の合計が100℃になった頃が孵化の目安となります。

つまり、ヒーターを20℃に設定し、日覆いなどを使用しながら水温を維持させた場合、
交配日を含めて5日後に孵化が始まると言う事になる訳です。

●孵化日数の目安。

水温14℃ → 孵化までの目安は7日。
水温16℃ → 孵化までの目安は6日。
水温18℃ → 孵化までの目安は5日半。
水温20℃ → 孵化までの目安は5日。
水温22℃ → 孵化までの目安は4日半。
水温24℃ → 孵化までの目安は4日。



5.卵を別の池に移動させる方法

交配後2〜3日目に卵を別の池に移動させる。

交配後の池は精子や腐敗した卵の影響で水質が非常に悪くなっており、
そのままの状態で水を放置していると、水質はますます悪くなり、
最初の水換えが大変になるばかりか、生まれて来た稚魚が全滅する場合もあります。

特に自然交配を行った場合や5月交配の場合は、水質の悪化が見られ易い為に十分な注意が必要です。

この水質悪化に対して、交配後2〜3日目に卵を産卵藻や下敷きと共に、
新水を張った別の池に移動させる方法があります。当然、水温は20℃としておく事が大切です。



6.稚魚への給餌

餌の与え方は人工餌と生餌で大きく異なる。

稚魚の成長の速度に差を出さない為にも、全ての稚魚に十分な餌を与える事が大切ですが、
餌の与え方は人工餌と生餌とで大きく異なります。

人工餌の場合、含有水分量が少ない為に消化に時間がかかり、
1回量が多い場合や時間をつめて与えた場合、消化不良や水質悪化を引き起こす事になります。

この事から、稚魚へのペレットの与え方は、5分程で食べ尽くす量を1回量として、
消化時間を考慮した上で、可能な限り多い回数を与える方法が基本となります。

生餌の場合、含有水分量が多い為に消化時間が少なく、餌そのものが生きている為に、
魚が好きな時に好きなだけ食べさせる事が出来ます。

この事から稚魚への生餌の与え方は、夕方まで生餌が絶えず泳いでいる状態を作りながら、
必要に応じて補充する与え方が基本となります。

●稚魚への給餌の基本。

@人工餌を与える場合
・1回量は5分程で食べ尽くす量。
・回数は消化時間を考慮して出来るだけ多く。

A生餌を与える場合
・朝から夕まで持続的に与える事が基本。



7.稚魚の水換え・・・@

水温の違いには細心の注意を払う。

水換えで水温差に対する注意を怠った為に、稚魚を全滅させてしまったと言う話を良く聞きます。
稚魚に限らず、急激な水温の変化は命に関わる問題ですので、十分に注意を払う必要があるでしょう。

もし水温差がある場合は、稚魚を入れた洗面器を新しい池に浮かべる事で、
水温の調整を行う方法が一般的です。

ただ、酸欠や鱗が取れる問題が生じますので対処が難しくなります。
エアレーションを施行すると魚は傷つきますし、高密度な状態そのものも鱗が取れる原因となります。



8.稚魚の水換え・・・A

稚魚をすくう際は注意深く行う。

稚魚はサイズが小さい為に、水換えでは手間がかかります。

無理に追いかけてすくい上げる方法では手間は改善されますが、
稚魚を傷つける可能性が高く、観賞価値を著しく落とす結果につながります。

逆に時間を掛け過ぎると、例えば小さな洗面器に多くの稚魚を入れていた場合、
瞬く間に酸欠となって死なせてしまう結果になります。水換えは丁寧に手際良く行う事が大切となる訳です。

●水換えでの注意。

・水温差に注意する。
・稚魚をすくう際は丁寧に手際良く行う。
・酸欠に注意する。
・エアレーションの影響を考慮する。



9.飼育密度について

飼育密度の調節で病気の予防が出来る。

高い飼育密度で魚を飼育した場合、急激な水質の悪化によって、
極めて高い確率で病気が発生する結果となります。
水質が悪化した場合、魚の体調の低下と病原菌の大繁殖が同時に生じる為です。

したがって、病気を予防する為には飼育密度の適正化が非常に重要となります。
密度を緩める事で魚の体調維持と病原菌の抑制が期待出来る為です。

●水質悪化の予防

・飼育密度を適正化する。
・水質が悪化する前に水換えを行う。
・残餌や糞はこまめに取り除く。



10.稚魚と繊維状の緑藻類

青仔になるまでは繊維状の緑藻類に注意する。

高い飼育密度などが原因で飼育池の水質が悪化して来ると、
水中にはアオミドロなどの繊維状の緑藻類が急速に繁殖します。

もし、稚魚がこの繊維状の藻を食べてしまうと、食べられた藻は消化されるどころか
エラや消化管の中で急激に成長し、やがて体内に収まらなくなった繊維状の緑藻類が
口やエラや肛門から出て来ます。

こうなるとピンセットなどで取り除く事も出来ず、稚魚は何も出来ずに
そのまま死んでしまう事になりますので、繊維状の緑藻類には十分に注意する事が大切です。

したがって、水換えのペースを速める方法や飼育密度を緩める方法、
魚に害を与える事無く繊維状の緑藻類を取り除く薬を使用する方法などで対処する必要があります。







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