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鰓病の最前線
様々な文献や情報を基に、当養魚場での最新の鰓病について説明します。
フレキシバクター・カラムナリス(Flexibacter columnaris)と言う、
グラム染色では陰性に属する細菌感染が原因です。
この細菌は1922年にアメリカで発見され、1953年に魚の筋肉に侵入する事が証明されました。
日本では1966年に水槽飼育のドジョウから確認されています。
この細菌は外部寄生性細菌ですが、飼育池や水槽内の常在菌である事を忘れてはいけません。
つまり、どこの飼育池であってもこの細菌は存在する訳です。
この菌は外部寄生性細菌ですが、傷のないエラには入り込まないので感染は起こしません。
しかし、ひとたびエラに傷がついてしまうと、菌はまさに傷ついた部位から魚体に侵入し、
カラムナリス病 (エラ腐れ病等) を引き起こします。
この菌にはいくつかの型があり、発育可能条件はそれぞれの型で少しずつ異なっていますが、
概ね水温5〜35℃であれば発育が可能とされています。
なお、日本のドジョウから分離された菌の発育条件は、水温が15〜35℃、
pHが6.5〜8.5で、猛烈な繁殖を見せたのが、水温が27〜28℃、pHが7.5でした。
塩水での発育条件としては、0.5%ではよく発育し、2%を超えるとほとんど発育しません。
淡水の場合、井戸水など水の硬度が高くなるほど菌の生存期間が長い事が証明されています。
水温変化での感染実験報告では水温の上昇(+2℃)では感染率29.9%、
水温の下降(−2℃)では感染率6.2% というデータがあります。
魚を飼い込む時期によく発生します。
菌の特徴を考えると、水温15〜35度の環境なら発生してもおかしくなく、
水温27〜28度では大繁殖する危険が高いと言えます。
この菌は常在菌であり、健康な魚がエラ病を引き起こす事はありません。
しかし、菌が傷ついた魚を見つけ、その魚への感染が成立した際は魚の栄養を使い、
分裂を繰り返して一気に数を増やして行きます。
そして、菌の濃度がある一定値に達すると健康な魚への伝染が起こります。
1つの池でエラ病が発生した場合、どれだけ注意しても飼育場全ての魚に伝染します。
風下へと向かって広がる為に空気感染もしているとしか考えられません。
魚を導入した場合は互いに菌の交換が起こり、免疫を持っていない魚へと菌が伝染します。
予防は隔離を続けるしかありません。
症状は魚種や菌の型によって多少の差はありますが、共通した症状として以下のような症状があります。
軽症
最初はエラの一部に小さな黄白色の付着物が見られる程度ですが、
やがて、食欲と活動性の低下、粘液の分泌亢進が見られる様になります。
また、溶存酸素の多いエアレーションの近くに集まり、フラフラとした泳ぎを見せる場合もあります。
重症
片エラ又は両エラが閉じたまま又は開いたままの状態となります。
食欲と活動性の低下は一層悪化し、群れから離れて殆ど泳がなくなる様子も見られます。
この時期になると、ヒレ腐れや尾腐れ、皮膚病も併発している場合が多いと言えるでしょう。
末期
酸欠と体力の低下の為に、体色はどんどん黒ずみます。
やがて、肉瘤や腹は痩せ細り、呼吸困難や衰弱などが死因となります。
受傷した魚に感染を起こしてしまう事から、エラの保護を心掛けた飼育に徹する事が大切です。
エラが傷つく原因については以下の事が考えられます。
@水質の悪化。
A網で魚を追い回す。
B網で魚をすくう。
C魚を空気中にさらす。
D水温の急激な変化。
E水質の急激な変化。
F魚を驚かせる。
水中の菌量の増加は健康魚への感染を意味するので、菌量を増やさない飼育が大切です。
@古い餌や酸化した餌は与えない。
A菌量を減らす為に早めの水かえを施行。
B水質の悪化を防ぐ飼育を行う。
C調子が悪そうな魚は早急に隔離する。
D難治性であった場合は池を消毒。
※残餌や水換えの遅れは菌量増加を助長する。
病気の治療に対する基本的な考え方として、病魚だけを治すのではなく、
同じ池にいた魚や池そのものを治す必要があります。既に相当量に菌が繁殖している為です。
したがって、同じ池にいた魚は十分に様子を伺い続け、
場合によっては予防的に薬浴を行う事を考慮した方が良いでしょう。
@〜Gを同時に開始する事を基本として、最大7日間様子を伺う。
@ 100%新水を入れた舟を用意する。(タタキ池での治療は絶対に不可。)
A 舟の4隅(少なくとも2隅)にエアレーションを行う。(エラ病は酸欠を惹き起こす為。)
B 0.8%の塩水とする。(食塩で無くて可。)
C エルバージュ4g/100Lを投与。
D やや低い密度で薬浴させる。
E 10時〜16時は池の8割をスダレで覆う。
F エラの動きが正常なら治療は完了。(正常で無い場合は続行。)
G 元の池は水換えを行うだけでよく、消毒の必要は無い。
※エラを掃除してあげる感覚で行う事が可能。
※1日(24時間)の治療だけでは心配の場合、最長7日間まで治療継続が可能。
※塩やエルバージュは初回に1度に投与すれば良く、追加投与の必要は無い。
※水温をヒーターで上げる必要は無い。
※0.6%塩浴なら治療期間が1週間程度かかる上、水が汚くなると逆にエラが開く。
※1%塩浴は魚への負担が大きく、また実績にも乏しい。
※エルバージュの色は日ごとに薄くなって良い。
※改善後は0.3〜0.5%の薬浴を2日間行ってから元の池に戻した方が無難。
効果不良例に対しては@〜Gの中でBCの変更とH〜Kの追加を考慮。
B 0.8%塩浴を0.5%塩浴に変更。(負担の軽減が目的。)
C エルバージュをグリーンFゴールド顆粒(規定量または倍量)に変更。
H メチレンブルーの追加。(60滴/100L。)
I 絶食。
J 寒い季節なら25℃の水温。(1日の最大上げ幅は2〜3℃。)
K 難治性に場合はイソジンで池の消毒を行なう。
※魚に活動性がある際は、少量の生餌を与えた方が治療成績は良くなる。
※治療池の水が腐った様な臭いがする場合は直ぐに水換えを施行する。
ワクチンとは、菌の死骸や断片を生体に投与する事で、
その菌に対する免疫力をつけさせる方法です。
これによって、その菌の感染率の低下や感染したとしても、
症状の軽減や死亡率の低下を得る事が出来る訳です。
カラムナリス病におけるワクチンですが、カラムナリス病で死亡した魚をミンチにして配合飼料に混ぜて
投与した場合の死亡率は8%、混ぜなかった場合の死亡率は
48%であったと北里研究所が発表しています。
ただ、前にも述べたようにカラムナリス菌には幾つかの型がある為、1種類のワクチン投与だけでは
対応する1つの菌型の感染しか予防出来ません。
ワクチンでエラ病を完全に防ぐ為には、全ての菌型に対応したワクチンが必要となりますが、
現在の所、その様なワクチンは開発されていません。
何度も述べている事ですが、この菌には幾つかの菌型(少なくとも9種類)があります。
したがって、魚がカラムナリス病になったからといって、
これから先、カラムナリス病にならない訳ではないのです。
つまり、まだ感染していない菌型に魚が暴露されると、
カラムナリス病を再度引き起こしてしまう事を忘れてはいけません。
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